よこまこ道中 ビバ★ホリデー!高知編【6】パワースポット竹林寺と旅の終わり

私と横水さんを乗せたクルマは、五台山と呼ばれる山の坂道を登っていた。案内板に竹林寺、と書かれた標識が出ている。

左手にお寺への入り口っぽい石段、道を挟んで閉店時間が過ぎてシャッターを下ろした売店が2つほどある。どうやらここが竹林寺の入り口らしいが、交通誘導員のお兄さんが立って警棒を振り、駐車場は上に行け、というサインを出している。

私達は竹林寺を通りすぎ、駐車場を目指した。かなり上まで登り、竹林寺からずいぶん離れたところに駐車場があった。夕方が迫り、駐車場には私達のクルマしか無い。

「ねぇ、よこちゃん。ここからさっきのお寺まで歩くの?」

想像するだけでうんざりした私が言うと、

「うん、歩かないといけないみたいだね。でも、こんなに歩くのもだるいね~」

とさすがの横水さんも言う。

「よこちゃん、文殊菩薩は私達を呼んでないよ、これ」

「うん、そうだね、呼んでなかったね」

私達は来た道を引き返すことにした。旅行に来てまで自分達に都合の悪いことをする必要はない。

竹林寺まで引き返すと、交通誘導員のお兄さんがぱたぱたと手を振るので、私達はクルマのウィンドウを下げた。すると、

「竹林寺に行くなら、この売店の前に止めてもいいですよ、もう人は来ないし」

と言う。

私達は顔を見合わせ、お兄さんの言葉に甘えることにした。

「……こんなにすんなり問題が解決されるとは、よこちゃん、私達やっぱり、文殊菩薩に呼ばれてるかも」

「……うん、呼ばれてるね」

私達はクルマを降り、竹林寺の入り口に降り立った。

竹林寺の入り口からは、先の見えない石段が伸びていて、傍らに傘立てのようなボックスがあり、竹の杖が入れてある。

「ねぇ、よこちゃん、杖が置いてあるよ。杖が無いと、この石段は上れませんよ的な、覚悟しろよ的なメッセージじゃないの、コレ」

私はすぐさま横水さんに泣き言を言う。

「いやいや、きっとお参りに来る人は年配の人も多いから、ご自由にお使いくださいって意味じゃないの? まこちゃんが必要なら借りたら」

「よこちゃんは?」

「私は無くても大丈夫」

このような石段を目の前にしても、スポーツマンの横水さんは全然ひるまないのだ。なんにでも頼りたい私は杖を選び、1本抜いて手に持つと、覚悟を決めた。

「よし、行こう」

「行こう」

横水さんはサクサクと石段を登って行く。私はよろよろと杖をついて後を付いていく。途中、右手に逸れる横道があり、その先には門があった。どうやらその向こうに、なんとかという偉い禅のお坊さんが作ったという美しい庭があるらしい。

私達は先にお寺に行くことにして、石段を登り進めた。握りしめた杖が使いづらく、階段を登る足とのバランスがとれず、とても邪魔になってきた。

「よこちゃん、杖、ジャマだった~」

「ハハ、たぶん上の境内に返すところがあるよ」

石段を登るに連れ、どんどん緑深くなり、気のせいかもしれないが、神聖な雰囲気に満ちてくる。さすが、聖武天皇が天啓を受けただけある霊山だ。すがすがしく、清らかな空気が漂っている。

その清らかな空気を全力でゼーハー、ゼーハーと吸って吐いてしながら、横水さんの後を付いて、ようやくのことで境内まで上がると、境内の入口には立派な門があった。左右に1対、阿吽の金剛力士像が建っている。

その門を抜けると広々とした境内があり、真正面には荘厳な本堂、左手には立派な五重塔が見える。右手にはお守りなどを売る売店があった。売店のそばに小さな水瓶があり、白とピンクの蓮の花が咲いていた。

私達は本堂に向かいかけ、

「あ、まこちゃん、杖返すところがあるよ」

「あ、ほんとだ。ジャマだから返しちゃお」

杖を返すと、本堂の文殊菩薩にお参りに行った。私達は鐘を付いて賽銭箱に小銭を入れ、手を合わせた。私は手を合わせたまま、横水さんを向いて言う。

「よこちゃん、文殊菩薩が私達を高知まで呼んだのかな」

「そうかもしれないね、ここに来るなんて予定は無かったのに、来てるんだもんね」

「何か、この場所でヒントがもらえるのかも」

「どんなメッセージをくれるんだろうね?」

お参りを済ませた私達はそう話しながら、五重塔の近くまで寄って見物し、それから境内にある『ひとこと地蔵』という大きなお地蔵さまに参ることにした。なんでも、ひとことで済む願い事を、ひとつだけ叶えてくれるのだと言う。

私達の前に、30代くらいの男性がいて、しゃがんで手を合わせ、ぶつぶつと何事かを唱えている、唱えている、ずーっと唱えている、――長過ぎる。

私は横水さんに小声で言う。

「よこちゃん、願いはひとことじゃないの? あの人のアレ、ぜんぜんひとことじゃなくない?」

「しーっ、まこちゃん、長いひとことかもしれないじゃん」

「えーっ、そんなのアリなの?」

「あ、済んだみたいだよ、私達も行こう」

男性が去って行ったので、私達もお地蔵さまの前にある賽銭箱に小銭を入れ、手を合わせた。望みはひとことで願わなくてはならない。

――どうしよう私、よくばり過ぎて、ひとことでなんてまとめられな……あっ!

名案を思いついた私は、そっと願った。

――どうか、私の願い事がこれから全部叶いますように。

ひとこと地蔵が、欲深な私の願いを聞いてくれるような、心の広いお地蔵さんだとありがたい。ひとこと地蔵に参った私達は境内の右手にある売店をひやかした。お守りやお札、開運グッズなど、いろいろと並べられている。

すっかり文殊菩薩に呼ばれたつもりでいる私達は、何かメッセージ的なものがあるかと思って探したけど、特にめぼしいものは無かった。でも、置いてあった「もんじゅさまのおしえ」という本の見本を立ち読みし、とても感心した。

「もんじゅさまのおしえ」の内容を簡単に説明すると、1人の修行僧の物語。修行を続けているけど、理屈で物事を考えているうちは悟れず、それを数回繰り返したのち、知識や知恵からではなく、心から人助けをしよう、と思った時、初めて文殊菩薩が目の前に現れた、というようなお話だ。

灼熱の太陽が照りつける中、汗をだらだら流しながら、私達はありがたいお話を立ち読みした。

「いいことが書いてあるねぇ、よこちゃん」

「うん、深いねぇ」

などと感心しているうちに、私の目に、売店の隅っこにある「開運招福お守り付きおみくじ」というのが目に留まった。

私はよくばりであるからして、おまけ付き、に滅法弱い。

「よこちゃん、よこちゃん! あのおみくじ引こう。なんか付いてくるらしいよ」

「縁起物のお守りが付いてるんだ、財布の中に入れるような、ちっちゃいお守りだね。面白そう、やろうやろう」

私達はおみくじの横の箱におみくじ代の小銭を入れた。まず、私からおみくじの箱に手を入れる。

「いいやつ当てようとか思うと、返って良くないのを引いちゃいそうなんだよねー。だから、最初に触ったやつにするよ……、よし、コレ!」

「じゃ、私も……、コレ!」

それぞれにおみくじを開く。横水さんは吉、私は小吉。まずまずの成績だ。病人の私は、病気の欄をすかさずチェックする。

『病気――弱気にならねば治る』

――うーーーん。

うつ病って、弱気になる病気だから、弱気にならねば治る、は確かにその通りだ。その通り過ぎてあまりピンと来ない。

でも、それ以外の項目は、どれも良いことが書いてあり、小吉の割には、なかなかいいおみくじだった。横水さんとお互いにおみくじを交換して見せ合い、

「なかなか興味深いね~」

「うん、なかなかいいことが書いてあるね~」

などと話し合った。

さて、肝心なのはオマケである。招福守りは全部で12種類あるらしい。そのどれかひとつが、このおみくじの中に入っているのだ。

横水さんが包みを開けると、1センチあるかないかくらいの小さな金色の縦長のうちわのようなものが出てきた。横水さんは添え書きを読む。

「なになに……、軍配うちわだって」

軍配うちわとは、相撲の行司が持っている、あのうちわである。または戦国武将が采配を振るう時に使う道具。このお守りの効能は災難を振り払い、商運や金運などを引き寄せるらしい。

「ふーん、よこちゃんにピッタリだね」

「どうして?」

「軍配って、示し導くための道具じゃん。いつも誰かをサポートして導いてる、よこちゃんにピッタリのお守りが当たったね」

「そうかな、うふふ」

「これからも、そうやって誰かを支えながら、自由に采配をふるいなさい、てのが、文殊菩薩がよこちゃんにくれたメッセージだよ、きっと」

「なるほどねー。まこちゃんのは?」

「今、開ける。待って待って」

私は自分のお守りの包みを開ける。中から出てきたのは、これまた1センチあるか無いくらいの、鳥?……のような、トーテムポールのようなカタチをしたもの。

「なんじゃこりゃ……、えーと」

私は添え書きを読む。

「鷽鳥、うそどり……、あっ、鳥のウソだって。……なになに、良くないことを嘘としてしまい、吉と取りかえる神事があり、その時に用いられる木彫りのウソ、だって。ウソが出た」

「ふーん、まこちゃんにピッタリだね」

「どうして?」

「楽しい嘘が本当になるじゃん。嘘から出たまこと、で高知に旅に来て、そして旅の終わりにウソを当てる、と。うまいことオチが付いたね~」

「なるほどー、これからも私は楽しい嘘付きであるよう、精進するわ」

「それが、文殊菩薩からまこちゃんへのメッセージだよ」

「おぉ、ありがとう、文殊菩薩よ。楽しいウソつきであれ、っていうメッセージを受け取ったよ」

――文殊菩薩はそんなことは言ってないかもしれないが、私はそう受け取った。文殊菩薩よ、私達に面白いお守りをくれて、楽しいメッセージをくれて、ありがとう。

「面白いねー、これ。当たったのがまこちゃんと私のが逆だったら、こんなにピンと来ないよ」

「そうだね、これはもはや運命だね」

「うん、運命だね」

私達は笑いながら文殊菩薩に、ここへ呼んでくれたことを感謝し、別れを告げ、境内を後にした。おみくじについてアレコレ話しながら石段を降りる。登るときはあんなに苦労したのに、帰り道は早い。

招福おみくじで満足してしまった私達はもう、庭園見物はどっちでも良くなり、またの機会に見送ることにした。夕暮れになり、時間もそんなに無い。

結局、今回の旅では、モネの庭、竹林寺の庭園とも、どちらも見ることが無かった。きっと今回は、庭に縁のない旅だったんだろう、と私達は口々に言い合い、空港を目指すことにした。

空港近くまでクルマを走らせ、レンタカーを返すと、行きと同じくレンタカーのマイクロバスに乗り、私と横水さんは空港に到着した。

空港内にも土産物屋が並ぶ。それらを一通り冷やかし、ぶらぶら歩いていると横水さんが言った。

「お腹すかない? まこちゃん」

「すいたー。そろそろ高知のラストを締めるモノなど食べていい頃合いー」

私達は良さそうなレストランに入り、食事を摂ることにした。横水さんは高知野菜のてんぷら盛り合わせうどん、私はちりめんじゃこ丼。

「てんぷら美味しい!」

「ちりめんじゃこも美味しいよ!」

「今回の旅、食べ物はハズレがなかったね~」

「私達の日頃の行いが、かなり良いからだね」

「そうだね、そうだね」

「後は帰るだけだね、最高の旅だったね」

「うん、本当に楽しかった!」

食事にも、今回の旅にも、心から満足した私達は食事を終え、店を後にした。

時刻はまもなく7時半、飛行機のチェックインをしようと、登場受付カウンターに向かう途中、何やらアナウンスが聞こえてきた。立ち止まり耳を澄ませると、飛行機が遅延しているらしい。

カウンターに行って聞いてみると、名古屋の天候が悪く、飛行機が1時間ほど遅れそうだとのことで、受付のお姉さんが申し訳なさそうに頭を下げる。

私と横水さんは途方に暮れ、空港のベンチに座り、話し込む。

「これは、まだ高知にいなさい、というお知らせかな、まこちゃん」

「いやー、もう満足したよ、満喫したよ」

「だよねー」

「だとすると、なぜ私達は足止めを食らっているんだろうか、よこちゃん」

「うーん、これは何かあるね」

「何かあるね」

「何だと思う、まこちゃん?」

「あ、あれじゃない、この足止めにより、私達は何か危険を回避したパターンじゃない? そのまま飛んでたら、飛行機が落ちたとか」

「ははーん、じゃ、こうしているのも意味があるわけか」

「きっとそうだよ、もう、ここで寝とこう」

「そうだね、寝とこう」

私達はそう結論を出し、搭乗案内のアナウンスが出るまで、ベンチにもたれ、うとうととひと眠りしたのだった。

1時間半遅れで飛行機に乗り込み、私と横水さんを乗せた機体は、無事に高知空港を離陸した。

飛行機のシートにもたれ、私は物思いにふける。

――楽しかったよ、高知。予想外にいいところだったよ。って予備知識が無いから本当は何も予想してなかったけど、すごくいいところだった……。

遠ざかる高知の灯りを窓からのぞきながら、そう感慨に耽っていると、隣の席では横水さんが既に爆睡している。

――丸2日間ドライバーしてくれて、疲れたんだな、よこちゃん。名古屋までおやすみ。

私は横水さんの頭上にある、手元用ライトに手を伸ばして消しながら考える。

――本当に冗談みたいなエピソードから始まった旅だったけど、とても充実した2日間だったなぁ。高知県は食べ物も、どれも美味しかったし、見どころもたくさんあった。「高知県、行ってみたい」という冗談を入り口に、たくさんの楽しい出来事が私達を待っていてくれた。

「嘘から出たまこと」は、まことに素晴らしきかな。

私はもう一度、竹林寺でおみくじと一緒に付いてきた、ウソのお守りを取り出し、眺めた。

あれこれ旅の思い出を思い返しているうちに、1時間はあっという間に過ぎ、中部地方の夜景が見えてきた。

――ただいま、名古屋! 留守番おつかれ~!

横水さんも目を覚まし、私達の乗った飛行機は、無事に県営名古屋空港に到着した。

空港の駐車場に停めたクルマへと向かう途中、横水さんが駐車場のエレベーターの前で立ち止まった。

「まこちゃん、これ見て!」

「ん? なぁに?」

エレベーターのドアに何やら貼り紙が貼ってある。

『雷雨による電気系統の故障のため、エレベーターを停止します』

エレベーター使用停止のお知らせだった。この日の名古屋空港近辺は、激しい雷雨で、翌日の新聞には、空港の上空をいくつもの稲妻が走る写真が掲載されたほどだった。

私達は貼り紙を読みながら、頷き合う。

「まこちゃん、やっぱり危険回避のパターンだったよ、うっかり乗ってから雷雨になったら、落ちてたかもしれないから、私達はラッキーだったね」

「ほんとだ。私達の空港でのウェイティングタイムは、無駄じゃなかったね、ラッキーだったね」

と口々に言った。そして横水さんのクルマにスーツケースを積んで乗り込み、自宅を目指した。横水さんは行きと同じように、私の住むマンションの前でクルマを止め、私は横水さんのクルマから降りた。

「ありがとう、よこちゃん。楽しかったね」

「ほんと、楽しかったね。それじゃ、また明日ね、まこちゃん」

「また明日ね、よこちゃん」

かくして、私達の賑やかな高知への旅は、たくさんの愉快な思い出を胸に残して、無事に終わったのだった。

※   ※   ※

それから3週間が過ぎ、季節は残暑から秋へと変わった。私と横水さんは相変わらず、毎日会ってお茶を飲み、おしゃべりをしている。

今日も私と横水さんは、向かい合ってお茶を飲んでいる。

「よこちゃん、高知楽しかったねぇ」

「楽しかったねぇ、まこちゃん」

「それはそうと、よこちゃん。とっておきのエピソードがあるんだよね」

「何? まこちゃん」

「昨日ね、リサイクルショップで1冊の本を買ったの」

「ほうほう」

「そしたらねぇ、本の間に、素敵なカフェのポストカードが挟まってたんだよね。前にその本を読んでた人が、しおり替わりに挟んだんだと思うんだよね~」

「へぇー」

「とても素敵なカフェで、見たら書いてある住所が宝塚市なの。

宝塚市で、誰かがその本を読みながら、カフェのポストカードを読みかけのページに挟んで、そのまま本はリサイクルショップに売られ、巡り巡って私の手元に来た、と」

「なるほどね、不思議な縁だね」

「これって、宝塚市に行けっていう、お知らせだと思うんだよね~。そのカフェでお茶飲んじゃったりしろ、ってことだと思うんだよね~」

「おー、宝塚かぁ」

「でさぁ、よこちゃん。宝塚って、何県?」

「ハハ、兵庫県だよ」

「……それじゃね、次は兵庫県だよ、私達の旅。

もうね、これ、運命だから」

――私達の高知への旅は終わった。

でも、私と横水さんの旅は、まだまだまだまだ、これからも続いていく予定。

to be continued~♪

――高知編―― 完

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