よこまこ道中 ビバ★ホリデー! 高知編【3】アンパンマンミュージアムと坂本龍馬

アンパンマンミュージアム・やなせたかし記念館は、あんぱんまんの生みの親、やなせたかしさんの故郷、高知県香美市香北町にある。

美しく整備された、鮮やかに緑の映える広い敷地には、アンパンマンのキャラクター達のモニュメントがぽつぽつと配されている。ちびっこ達が大喜びしながら嬌声を上げて、モニュメントのアンパンマンやしょくぱんまんに抱きついている。

大きなモニュメント、ジャイアントだだんだんの横に、ボックス型の近代的なデザインのミュージアムが建っていた。

「きれいなところだねぇ」

「うん、辺り一帯が公園みたいになってるね。中に入ろう」

入口を入ると、順路はなく、どこからでも好きに見ていい作りになっている。ゆるいスロープの横にはミュージアムショップ。よくばりの私はもう、ショップを見たくてたまらないけど、とりあえず先にギャラリーを見ることに。

ミュージアムの入り口の真正面には、オシャレに決めたやなせたかしさんご本人のタペストリーが飾られ、来館者を出迎えてくれる。

ミュージアムの入口脇には、やなせたかしさんから来館者へのメッセージが掲げられていた。

『ごあいさつ やなせたかし
人生なんて とてもふしぎ

(中略)

こんな山峡の町まで
来てくださった皆さまもふしぎ
ふしぎどうしが笑いながら
ここへ来てよかったねと
よろこぶのもふしぎ』

――本当に不思議だ、と思った。いったい、どういうわけで私達は今ここに立ってるんだろう。いくつもの偶然の巡り会わせが重なって、はるばる高知まで来て、やなせたかしさんのこのメッセージを読んでいる。

今回の高知旅、私のスタートはお風呂のイスで、横水さんのスタートは会合のキャンセル。そこから2人のタイミングがピッタリ合ったこの8月に、私達はなぜだか分からないけど高知県に来て、やなせたかしさん残したこの文章を読んでいるのだ。

「不思議だね」

と横水さんが言った。

「本当にね」

と私も答えた。

それから私達は館内を見て回ることにした。壁いっぱいに描かれたアンパンマン達の壁画を眺め、ギャラリーへ。ギャラリーに展示された絵は、アニメのような明るいタッチのものだけではなく、暗い色合いのものも多い。

暗闇の中から、光を目指して飛ぶアンパンマン。暗い花畑にたたずむ、ほとんど影になったアンパンマン。「光と影」が描かれたアンパンマンの世界は、見ていて胸に迫るものがある。決して子供向けではない絵。

アンパンマンのテーマソングは、「なんのために生まれて何をして生きるのか、答えられないなんて、そんなのはイヤだ」で始まる。

作詞もやなせたかしさんが手がけているのだが、やなせたかしさんは、子供でも1人の人として、大人と同じように敬意を持って接するべきで、子ども扱いするべきではないから、哲学的な歌詞にした、と生前に語っている。

展示された絵は、やなせたかしさんからの『人とはどうあるべきか』という問いが含まれているような、深いモチーフのものが多かった。大人にも見応えのある、やなせたかしさんの描くアンパンマンの世界。とても深い。

館内の2階には、2畳もないくらいのこじんまりとした館長席があり、生前のやなせたかしさんは気に入って座っていたという。館長席には数多くの感謝状が飾られていた。

やなせたかしさんの著書の中に、キャラクターデザインはボランティアばかりで儲からないけど、どんどん引き受ける、だから感謝状だけが増えていく、と冗談めかして書かれていたのがコレかぁ、と思いながら愉快な気持ちで眺めた。

そして地下に降りると、アンパンマンワールドと銘された、ミニチュアのアンパンマンの町が広がっている。パン工場には、アンパンマンのキャラクター、ジャムおじさんのパン工場もあり、焼く前のアンパンマンの顔が置いてあったりして、なかなか楽しい。焼く前の、生地アンパンマンだ。

アンパンマンのカタチをした乗り物、アンパンマン号もあったので、ちびっこがいないのを見計らって、乗って記念撮影をした。でも40代のおばちゃんがアンパンマン号に乗ってはしゃいでいる様子は、あまりにも大人げないので写真は自粛。

アンパンマンミュージアムの裏手には、「詩とメルヘン記念館」という、やなせたかしさんの詩の世界が堪能できるミュージアムもある。アンパンマンミュージアムに行かれた際は、ぜひこちらもご覧あれ。詩人やなせたかしさんのルーツが分かる展示になっている。

さて、アンパンマンミュージアムを後にした私と横水さんは、一路、桂浜に向かって車を走らせた。桂浜に着くまでの間に、「ごめん駅」という変な名前の駅があることを知り、立ち寄ってみた。ごめん、は後免と書くらしい。

「ごめん」にちなんだ、ごめん饅頭とか、ごめんクッキーとか、謝罪グッズとか、何か楽しいものがあるかと思ったが、特に何もない、ごく普通の駅だった。

気を取り直して私達は引き続き、龍馬の待つ桂浜へ向かうことに。

桂浜にはカーナビの案内通りスムーズに到着し、駐車場にクルマを止める。夕方が迫っているのに、まだまだ気温が高い。

桂浜の駐車場のすぐそばには、土産物屋や食堂が立ち並んでいた。まるで1970年代くらいにタイムスリップしたかのような風情。懐かしき昭和テイストが、逆に新鮮。

土産物屋の2階の窓に、『喫茶・食事』と書かれているのを指さし、私は弱音を吐く。

「よこちゃん~、私もうね、暑いし、のどが渇いたよ。桂浜とか、龍馬の前にお茶したい~」

横水さんも、

「そうだね、暑くて、のどが渇いたね。じゃ、ここらへんの食堂で涼もう」

と言い、私達は桂浜より龍馬より、お茶を飲むことを優先することにした。

1970年代に時間が巻き戻ったような土産物屋群は、2階が食堂になっているらしい。どの店もそんなに変わらないように見えるので、私達は適当な店に入った。

店内に入ると、所狭しといろいろな土産物が並んでいる。最近良く見かけるご当地キャラクターものや龍馬のキャラクターグッズに混じり、桂浜や竜馬が描かれた懐かしい感じののれんや提灯、三角のタペストリーが並んでいる。新品なのに懐かしい。こういうの、まだ作っているところがあるんだなぁ。売れるのかなぁ。修学旅行で誰かが必ず買う木刀もちゃんと置いてある。

棚卸しが大変そうだ、と思わされるほど商品に溢れ返った店内の、一番奥にある「↑食堂」というプレートの貼られた階段を登り、2階へ。2階は大広間になっており、広い畳敷きの座敷にいくつもの横長の折り畳みテーブルが並んでいた。誰もいない。

「修学旅行生が、みんな並んでごはん食べるみたいな感じのとこだね」

「うん、懐かしい感じだね」

私と横水さんは靴を脱いで広い座敷に上がり、隅っこに座ると、思い思いに足を崩した。

「いやー、涼しい涼しい。楽ちん楽ちん。気取ってなくていいねぇ」

「暑かったねー、のど乾いた―」

私達は帽子や腕カバーを外して寛ぐと、メニューを眺めた。

「まこちゃん、柚子ジュースあるよ」

「いい、飲まない。私はアイスコーヒー」

「じゃ私もアイスコーヒー」

そして私達は、メニューに載っていたかつおの煮つけを頼んだ。アイスコーヒーに煮つけは全然合わないが、とりあえず、土地のものはどんどん食べて行こうという、2人の方針に基づいた決定だ。煮つけは一口大にカットされて、お皿に並べられ、つまようじが刺さって出てきた。

「旅気分、満喫だね~」

と、体操座りの横水さんが、かつおの煮つけをつまみながら言う。

「ほんとほんと、のんびりした良い旅だね~」

と、足を伸ばした私が答える。自由気ままな旅について、アレコレ2人でおしゃべり。時刻は夕方に差し掛かり、広々とした座敷には相変わらず私達しかいないので、まったりとのんびりと過ごす。

おしゃべりに一区切りついたところで、横水さんが言った。

「よし、それじゃ、ひと息付いたことだし、坂本龍馬に会いに行こう」

「そうしよう、龍馬に会うぜよ」

私達は店を出て、1970年代から現代に戻った。ゆるいスロープの道をくだり、坂本竜馬像を見に行くことにした。

スロープの途中で道が分かれ、枝分かれした先には坂本龍馬記念館があるとの案内が出ていたが、私達が行った時はリニューアルのため休館中だった。リニューアルオープンは2018年4月だそう。

全国の坂本龍馬ファンには申し訳ないけれど、私と横水さんは、坂本龍馬は内田聖陽さんが一番、くらいの思い入れしかないので、さほど落胆もせず、桂浜に降りて行った。

足元は砂に代わり、私達は砂を踏みしめて波打ち際に近寄よる。眼前に広がる、美しい海。

「おぉ、ここが桂浜か!」

「そうだよ、まこちゃん。海に向かって叫ぶならここだよ」

「でも、なんかイメージと違う」

「何が?」

「なんか、龍馬&海は、もっとこう、荒波ザバーン!な感じの、日本を変えるぜよ!みたいなイメージだったよ。荒々しい雰囲気の、濃紺の海で飛び散る波しぶき!みたいな」

「そうは言っても日本海じゃないからね~、太平洋だからね」

「それなのに、日本男児龍馬は、こんなオーシャンブルーのキレイな海を眺め、日本を変えようと決意したのかと。これじゃラテンだよ。今、夏だし、余計にラテン」

「そんな勝手なこと言っても、ここが龍馬の故郷だよ」

「あ、でもいいのか。太平洋だから、その先の向こうに広がる『世界』を見据えて、龍馬は日本を想ってたんだね~」

私達は砂浜を歩き、龍馬像へと向かうことにした。

海岸の一部に木々の生い茂った小高い丘のようになったところがあり、そこから上に向かって遊歩道のような階段が伸び、その先に龍馬像があるという案内札が立っている。

「えー、階段上がるのー。ぽっちゃりには厳しいよ~」

私は階段を登るハメになることに目ざとく気づき、素早く音を上げる。

「でも、まこちゃん、ここからじゃないと龍馬のとこに行けないみたいよ」

横水さんにそう言われ、私はヒーヒー言いながら一段ずつ階段を上がり、横水さんの後をついて歩く。横水さんはスポーツマンなので忍者のようにポンポンと階段を上り、私はモタモタと上がる。暑いし、階段はきついしで、私はまだ見ぬ坂本龍馬をちょっと恨む。

遊歩道の階段を抜けると、木々が開けた公園のような場所になっていた。

「まこちゃん、着いたよ」

「はー、よこちゃん、はー、着いたかー」

その広場に、あの有名な坂本龍馬像は建っていた。

堂々とした台座の上で、和服姿に懐手、ブーツを履いた龍馬は、はるか遠く太平洋の向こうを見つめている。像の高さは5.3m、台座を含めた総高は13.5mもあるそうだ。

「大きいね!」

「高くて顔が良く分からないね」

私達は龍馬像を見上げてパシャパシャ写真を取る。

「龍馬に会いに来たぜよ! 土佐に来たぜよ!」

私が龍馬にそう言うと、横水さんはゲラゲラ笑う。

「この旅が決まるまで、龍馬が高知出身って知らなかったじゃん。会いに来たぜよ、は、言い過ぎじゃないの~」

「問題ないぜよ、社交辞令ぜよ。坂本龍馬はたぶん、そんなこと気にするような器の小さい男じゃないぜよ」

私達は、いつまでも遠くを見つめる龍馬に別れを告げ、桂浜の駐車場に戻った。

クルマに乗った私達は話し合う。横水さんが言う。

「この後は、もうホテルに行っちゃって、チェックインしてから、ちょっと寛いで、ごはんを食べに行くとちょうどいいよ」

「うん、ホテルも素敵なところみたいだからね、ホテルでゆっくりしたいよね」

私も同意し、私達は桂浜の駐車場を離れ、ホテルを目指すことにした。

ホテルに近づいてきたとカーナビが知らせる頃、道路の脇に大きなクジラのオブジェが見えてきた。親子のクジラがゆうゆうと空を泳いでいる。

「よこちゃん、見てみて、クジラがあるよ! クジラツアーの看板だね!」

はしゃいだ声を出す私に、横水さんが言う。

「うん、ここのツアーが、あの早口の土佐弁のおばちゃんがいるところだよ。最初はここでツアーを頼もうと思ってたんたけど、時間が合わなかったからね、私達はここからクルマで2時間行ったところにある場所からツアーに行くんだよ」

「そうかぁ、明日が楽しみだね~」

「明日はクジラに会えるといいねぇ」

口々に言いながら私達はクジラのオブジェを通り過ぎ、ホテルを目指した。

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