よこまこ道中 ビバ★ホリデー! 高知編【2】道の駅とかつおのタタキ御前

飛行機から降りた私と横水さんは、機体から降ろされた荷物が出てくるベルトコンベアの前で、スーツケースが回ってくるのを待つ。荷物をピックアップし、ゲートを抜けた私達を、最初に迎えてくれたのはレプリカの坂本竜馬像だった。

レンタカーサービスのカウンター脇の、観光名所のパンフレットなどが並べられた雑多な空間に、荒波を背負った坂本龍馬が立っている。

私はレプリカ龍馬像の横に並ぶと、顔を見上げて言った。

「やっぱり龍馬はイケメンじゃないね。坂本龍馬の中では、ドラマの『仁』で、内田聖陽さんが演った龍馬が一番カッコいいと思う。内田聖陽さんのバージョンで銅像作ればいいのにね」

「あー、内田聖陽さんの龍馬、カッコよかったよね」

と横水さんも言う。

「でも高知に着いた人を、ここで待ってるってことは、やっぱり高知って言えば、土佐の代表って言えば、龍馬なんだね」

「そうみたいだね」

「この空港も、龍馬って名前が付いてるんだよね?」

「そう、高知龍馬空港」

「よこちゃん、名古屋もなんか、郷土の偉人の名前付ければいいのにね」

「まこちゃん、誰にする?」

「うーん、織田信長って言いたいけど、他の県と取り合いになりそうだしな。悩ましいね。考えとくよ」

私たちは、レンタカーサービスのカウンターに行き、レンタカーを借りる申し込みをしていることを告げた。そして、レンタカーサービスのお兄さんに連れられて、空港を出る。レンタカーサービスのマイクロバスに乗って、クルマの置いてある営業所まで移動することになった。

マイクロバスの窓から見える、のびやかに葉を広げるシュロの並木を指さして、私はウキウキと横水さんに話しかける。

「なんか、南国っぽい木が生えて、暑いし、南国って感じだね、高知」

「四国だからね。名古屋よりちょっと暑いかな」

「イメージと違うね」

「え、どんなイメージだったの?」

「そう言われると、実はなんのイメージもなかった。高知のこと、何も知りません」

「ハハ、なにそれ。でも、柚子とかマンゴーとかが特産だから、あったかい地方だよね」

「ほうほう、来てみないと分からないもんだね」

そうこうしているうちにマイクロバスはレンタカーの営業所に到着し、横水さんがクルマを借りる手続きをした。私は病気の服薬のせいで、クルマの運転を自粛している。だからこの旅のドライブは、横水さんがオール運転手なのだ。ありがたい。

私達には、黒のデミオのカギが渡された。今日はこのクルマで、いろいろな観光地を回る予定なのだ。

私と横水さんはクルマのトランクにスーツケースを収めると、運転席と助手席に座った。横水さんがハンドルを握り、私はシートベルトを締める。楽しいドライブのはじまりだ。

横水さんがカーナビをセットしながら言う。

「今日の予定は、今日の目的地の中で一番遠い、北川村の『モネの庭』に向かって、途中気になるところがあったら寄り道して、帰りは、アンパンマンミュージアム、そして桂浜、その後ホテルです」

「了解です! よろしくお願いします!」

「では、しゅっぱ~つ!」

横水さんはそう言い、アクセルを踏んだ。私達は空港からまずは東へ、室戸岬の途中にある「モネの庭」を目指すことにした。

しばらく走ると、海沿いの道に出た。広がる水平線。とても美しいブルーの海が、太陽の日差しを受けてキラキラと光っている。抜けるような解放感。名古屋でも海から離れたところに住む私達のテンションは一気に跳ね上がる。

「うひょー、オーシャンブルー!」

「海ってだけで、ワクワクするね~」

私達は陽気に歌を歌いながら、海沿いの通りをドライブした。シュロの木が生える海沿いの道は、私達の旅気分をますます盛り上げてくれる。

そんな中、道路脇を前方から、白装束に笠をかぶった人が、杖をつきながら歩いて来た。

「ねぇ! よこちゃん、あれ、あの人。なんていうんだっけ? えーと、ほら」

言葉に詰まる私の指さす方向を見て、横水さんが言う。

「あ、お遍路さんだ!」

「そう、お遍路さんだ、お遍路さん! 本物のお遍路さん、初めて見た!」

「ああやって歩いて回ってるんだね~」

「四国ぐるりと八十八か所回るんだよね? とてもじゃないけど、私には四国巡礼、やり遂げない自信があるよ」

「ハハ、そうか、自信があるんだね」

すると、横水さんがクルマのウィンドウから斜め上の標識を眺め、言う。

「お、道の駅だって。入ってみる?」

「うん、行ってみよう。なにか珍しいものがあるかも」

私達は車を止め、道の駅の店内に入った。並べてある野菜は、大きい緑色の瓜のような、名古屋では見たことのないものも混じっている。高知の特産のショウガも並んでいる。

お土産コーナーもあり、龍馬をモチーフにしたグッズがいろいろと並べられていた。地酒や柚子を使った調味料などもある。私達はアレコレ言いながら、土産物をひやかした。

「やっぱりご当地土産は龍馬尽くしだね、よこちゃん」

「楽しいね、見てるだけで旅に来たって感じ」

「とりあえず、のどが渇いたー。なんか飲み物買おう」

私達は道の駅の自動販売機で、ペットボトルの飲み物を買い、ひと休みすることにした。私はアイスティー、横水さんは高知の特産品、柚子を使った柚子ジュース。名古屋では見たことのないパッケージだ。

ベンチに座ってそれぞれペットボトルをあおりながら、横水さんが言う。

「まこちゃんは、どこでもアイスティーかアイスコーヒーだね」

「そう、私、食べ物と飲み物は保守派なの。よこちゃんはいつもチャレンジャーだよね。柚子ジュース、どんな感じ?」

「柚子」

「なんじゃそりゃ、その感想。ひとくち、ちょうだい。私がもっとうまいこと言うわ」

「いいよ、飲んでみて」

横水さんは、柚子ジュースを私に手渡し、私はゴクリと柚子ジュースを飲む。横水さんがたずねる。

「感想は?」

「柚子」

「ほらね~!」

「……ほんと、思いのほか、思いっきり柚子だったわ~、他に言いようがないわ~」

絞りたてのキュッとした酸味が効いた柚子のジュースを味わい、ひと休みを終えた私達は、再び東へぶらぶらとクルマを走らせた。その途中、私は窓の外を指さして叫んだ。

「あーーー!」

「なに!? まこちゃん」

「今の見た!? 坂本龍馬が看板になったクリーニング屋さんがあった!」

「それがどうしたの?」

「坂本龍馬はね、『マンガ坂本龍馬』にも書いてあったけどね、『今一度日本を洗濯致し候』って言ったんだよ。日本を変えるぞ的な意味でね。

だから高知では、絶対絶対ぜーったい、クリーニング屋さんの看板に使われてると思ってたんだよね~、大当たり、読み通り!」

「なるほどね~」

私達は途中、もう2つ、道の駅にふらりと立ち寄った。その都度よくばりな私は、アレコレと土産物を買った。

なぜなら、高知には高知にしかない限定レアアイテムがあるからだ。

ここ高知県は、アンパンマンの作者の、やなせたかしさんの故郷である。来てみて知ったけど、やなせたかしさんは故郷にとても貢献していて、いたるところにやなせたかしさんのデザインした、独自のご当地キャラクターが銅像になって建っていたり、グッズになって売られていたりする。

私はやなせたかしさんの大ファンなので、それはもうウハウハと、やなせたかしさんがデザインした、キャラクターのてぬぐいを買ったり、お菓子を買ったりした。

さて寄り道も済んで、今日の目的地1つ目である、北川村にある「マルモッタン モネの庭」が近づいてきた。

「マルモッタン モネの庭」とは、画家のモネがこよなく愛し、絵のモチーフに多用したという、フランス、ジヴェルニーの庭をモデルにして造られた庭園だ。睡蓮の花が揺らめく池に太鼓橋や藤棚、ローズアーチなどが配された美しい庭園、らしい。

ホームページを見ると、まるでフランス、といった風景で、自分がその一部になれるというのは、うっとりする気分、だろうな……

らしい、だろうな……、というのは、モネの庭の入り口に近づいた時のことである。

横水さんが、突然叫んだ。

「あ”ーーーーー」

「なに!? どしたの? どしたの?」

「しまったぁ~、まこちゃん。今日、ここ休館日だ~!」

「休み?」

「旅程を入れ替えた時に、忘れてた~、本当は明日行く予定だったから問題なかったんだけど、今日は休館日なの~。まこちゃん、ごめんよ~」

「全然問題ないよ、ノープロブレム。今回ここはナシってことで、っていう、神様のお告げだね」

「ごめ~ん」

「大丈夫、大丈夫。ここに来るつもりだったから、3つも道の駅に寄れて楽しかったし、何も損はしていないよ。オッケーオッケー」

「そう?」

「うん、ここに来る予定じゃなかったら、地元の人が行くような道走ったりしなかったから、今回の旅では、私達をここまで誘導するために、この庭が存在したのだ」

「……だよね、そうだよね~」

「このまま旅を続けよう~。この時間が浮いたぶん、我らはまた、自由に寄り道できる可能性が増えたよ」

「だよね~。行こう行こう!」

私達は、素敵な門に下げられた「CLOSE」の札を横目で見ながら、クルマをUターンさせた。

――いつの日か、きっとリベンジするよ、モネの庭。

さて、折り返してクルマを走らせていると、横水さんが言い出した。

「まこちゃん、お腹すかない?」

「すいたー、もうなんか食べていい頃合い~」

「だよね~、何食べたい?」

「土佐かつおのタタキ! 定食みたいなやつ!」

「おー、いいね~」

「それも、地元の人が行きそうな、あんまりスタイリッシュじゃないところ……、

あーっ!!!」

「何?」

「今の店、駐車場にノボリが出てた! 土佐かつおって書いてあった! いい具合にオシャレじゃなかった!」

「よし、戻ろう! そこ行こう!」

横水さんはテキパキとハンドルをさばき、車をすぐさまUターンさせると、今来た道を戻った。店はすぐに見つかり、海が良く見える駐車場に車を止め、私達は車を降りた。

お店は、レストランとドライブインと食堂を足して3で割ったような店構えで、なんとなく昭和の香りのするレトロな雰囲気。駐車場には、「土佐かつお!!」のノボリが、潮風を受けてはためいている。駐車場は混んでいて、ガラ空きの店じゃないことが分かる。つまり、そんなに不味くない、ってことだ。

「よこちゃん、いい感じじゃない?」

「いいよね、中に入ろう入ろう!」

私達はお店の中に入った。

インテリアも小物も昭和なテイストで、清潔で落ち着いた雰囲気だけど、スタイリッシュじゃない店内。変に今時風にディレクションされていない分、これは期待できそう~、と私達が目を合わせていると、ウェイターの女性に窓辺の席に案内された。大きく開かれた窓の外には、オーシャンブルーの海と青空が広がっている。絶景だ。

「きれいな海だね~、まこちゃん」

「オーシャンビューの特等席だね~」

私達はひとしきり感心した後、メニューを開いてじっくり吟味し、「土佐かつおのタタキ御前」を注文した。御前の中身は、土佐かつおのタタキに、温泉卵、小鉢、お味噌汁、ごはんが付いた定食だ。

また海を眺めておしゃべりしていると、まもなくお膳が2つやってきて、私たちの前にそれぞれ並べられた。

器に盛られた土佐かつおは、とても脂がのっていて美味しそう。赤身の新鮮なかつおの背が、ほどよくあぶられていて、照り照りとしている。赤身の横にはスライスしたにんにくが添えられている。

「まこちゃん、生のにんにくが付いてるよ」

「ほんとだね、こんなの初めて見た。かつおと一緒に、このタレに付けて食べるんだね」

「ひと切れがすごく大きいよ、名古屋で見るのとツヤが違うね」

「うん、ツイッターの皆さんが、『高知って言ったらかつお』『高知でかつおを食べると、かつおの概念が覆る』って言ってたよ」

「じゃ、さっそくいただこう!」

「いただきます!」

私達はかつおのタタキに箸を伸ばした。赤身の上に、にんにくのスライスを乗せ、添えてある小皿のタレを付けて口に入れる。

「!!!」

横水さんがもぐもぐしながら目をまん丸にした。私も同じような顔をしていたと思う。

――う、うまーーーーーーーい!

脂の乗った濃厚な魚の旨味に、ピリリとした生にんにくの辛さが効いて、絶妙な味わいを醸し出している。分厚く切られた身も柔らかく、舌の上でとろけるようにジューシー。と同時に、あぶられた皮の香ばしい香りが鼻を抜ける。

「まこちゃん、美味しいね! びっくりするね!」

「うん、こんなの食べたことないよ、よこちゃん! 確かに、かつおの概念がひっくり返ったよ。かつおってこんなに美味しい魚だったんだね」

「本場は違うね~」

「さすが本場だね~」

私達は感心しながら「さすが本場」「本場は違う」を連発しながら、かつおのタタキ御前を堪能し、非常に満足した。

本当に、これまで食べていたかつおのタタキとは何だったのかと思うほどの、びっくりする美味しさだ。高知に行かれた際には、絶対にご賞味あれ。きっと、かつおの概念が覆るので。←今は私も、このセリフを言える側になれた。フフフ。

さて、お腹もいっぱいになった私達はクルマに乗り込み、南の香美市へ向かうことにした。次の目的地、アンパンマンミュージアムを目指すのだ。

運転席でハンドルを握る横水さんが、ポツリと言う。

「……どうしよ、困った、まこちゃん」

「どした!? よこちゃん」

「お腹がいっぱいになって私、ちょっと眠くなってきちゃったよ~」

「それは大変! 私、歌うわ! よこちゃんの目がガツンと覚めるヤツ、なんか歌うわ!」

「歌って~」

「そうだな……、よ~し、

♪飲め~と言われて柚子ジュース飲んだ~」

「なに、その歌?」

「かつお節だね人生は、です」

「どうぞ、続けて」

「♪飲め~と言われて柚子ジュース飲んだ~

♪かつ~お食べたら~死ぬほどウマい~

♪高知の出会いは~何があるかな~

♪けず~り~、けずられ~、味が出る~~~」

「チャチャチャ!」

「♪かつおぉ~~~~、ぶしだね、女の、女のぉ~~~」

「チャチャチャ!」

「♪♪じんせ~い~~~~は~~~~~」

途中から横水さんの合いの手が入り、最後のパートは2人で一緒に歌った。

「よこちゃん、目が覚めた?」

「覚めた覚めた。もうすぐ着くよ、アンパンマンミュージアム」

私達の目の前には整備されたキレイな丘が広がり、近代的なミュージアムと、アンパンマンのアニメの中で、ばいきんまんが操縦する巨大メカ、「ジャイアントだだんだん」が姿を現した。

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