よこまこ道中 ビバ★ホリデー! 高知編【1】事の発端と旅の始まり

よこまこ道中 ビバ★ホリデー!
【登場人物】

――松桐谷まこ

本文中の私、まこちゃん。名古屋在住。40代、病気療養中の主婦。座右の銘「一石二鳥」。思いつきの言動が多い。適当。よくばり。友達の横水さんは同じ町内に住む大の仲良し。

――横水うの

本文中の横水さん、よこちゃん。名古屋在住。40代、スポーツマンの主婦。座右の銘「人間万事塞翁が馬」。早寝早起き。段取り上手。

よこまこ道中 ビバ★ホリデー!高知編

『よこまこ道中、高知の旅、
はじまり、はじまり~』

古くから伝わる言葉に、「嘘から出たまこと」という言葉がある。

辞書を引くと、

嘘から出たまこと【うそからでたまこと】

嘘としていっていたことが、結果として真実になってしまうこと。また、冗談で言ったことが、偶然にも真実になること。

とある。

冗談が思わぬ展開を見せ、本当に実現してしまったこと。冗談から出たひとことで、私と、友達の横水さんが高知県を旅して来たこと。今日は、その話をしようと思う。

話は、お風呂のイスから始まる。

遡ること半年前の3月9日、その日の私は、お風呂のイスをネット通販で買おうと思い、アレコレとiPhoneで検索し、ネットの海を漂っていた。

私はうつ病に罹っており、うつ病患者にはよくあることだが、お風呂に入るのがとても辛い。服薬の副作用で体重も増え、丸々とした体つきなので、イスに座っているのも辛い。

そこで、苦手なお風呂タイムを少しでも快適にしようと、座り心地のいいお風呂用のイスを求めて、私はネットサーフィンをしていた。

……ハズだったのだが、ネットサーファーが陥りがちな罠にはまり、私の関心は、お風呂のイスから脱線に脱線を繰り返し、気が付いたらなぜか、高知県の観光地について調べていた。

――高知県。

高知県の皆さんには大変失礼で恐縮なのだが、これまで40数年の私の人生で、一切関わりのなかった県である。

高知県ってどんなところなんだろう? 名産って何?などと考えながらアレコレ調べている途中で、そうだ、私はお風呂のイスを探していたのだった、と初心を思い出し、ネットサーフィンを中断し、ひと休みすることにした。そして、ひと休み前にツイッターで、何気なく、こう呟いた。

「今朝の私は、ステキなお風呂のイスを探してネットサーフィンしてたハズなのに、紆余曲折あり、今は高知県の観光スポットを検索しています。なぜそうなったかの流れは思い出せませんが、お風呂のイスはどうでもよくなり、高知に行きたいです」

ほんの冗談のつもりだった。たわいもないツイッターでの発言。しかし、どうだろう。思いもかけずツイッターの皆さんが、この私の呟きに応えてくれ、高知の魅力を教えてくださるメッセージが、「高知よいとこ」が次々に届いた。

土佐のかつおの尋常じゃない旨さ、クジラを見ることが出来るホエールウォッチングツアーがあること、外国みたいなステキでオシャレなリゾートホテルがあること。エトセトラ、エトセトラ……。

それらを読んだ私は、数時間前まで高知県なんて、頭の中に1ミリもなかったのに、にわかに高知県が魅力的な場所に思えてきた。なんか高知県、すごく楽しそう……。

そして私はその夜、ツイッターでこう呟いている。

「成りゆき上、高知県に行きたいと呟いてみたら、優しい皆さんから高知の魅力をたくさん教えてもらい、今年、本当に行っちゃう?、高知が私を呼んじゃってるよね、とその気になってます。後は体調と家族の説得のみ。」

……もう、いとも簡単に、高知県に行きたくなってしまっている。家族の説得、と書いているが、夫を説得するのはそんなに難しくないので、体調さえ大丈夫なら、私は一路、高知へと旅立つのだ。

――そうだ、夫を説得する前に、友達の横水さんを誘ってみよう、そうしよう。

私はまだ見ぬ高知になんとなく思いを馳せながら、安らかに眠りに就いた。

日たたずして私と横水さんは、お互いの家の近所の、いつもよく行く喫茶店で向い合せに座り、お茶を飲んでいた。私は、ツイッターの皆さんから聞いた(受け売りでにわか知識の)高知県の魅力を、とくとくと横水さんに語った後、

「そんなわけで、よこちゃん。私達が高知県に行くのは、これはもはや運命だよ!」

と言うと、それまで、ふんふんと話を聞いていた横水さんが、運命、というキーワードにピクリと反応し、

「それね、本当に運命かもしれない」

と言い出した。

「なんで?」

と私は聞く。自分で運命だと言っておきながら、そうだと言われたら「なんで?」はおかしいが、私は聞いた。横水さんは言う。

「私ね、去年、ある会合で高知に行く予定があったんだ。私が段取りする手筈だったから、行き方も飛行機も全部調べてたんだけど、直前になってその話が無しになったの」

「なんと!」

「だから、行き方も飛行機も、すでに知ってるのだ」

「なんと! これはまさに、運命!」

「うん、運命!」

私と横水さんは、押しつけがましいスピリチュアルは大の苦手だが、自分たちが勝手にスピリチュアルっぽいことを言うのは大好きなのだ。

「ところで、よこちゃん。飛行機に乗って行くって、高知ってどこにあるの?」

「アハハ、何言ってるの? 四国だよ、四国の下のほうだよ」

「ふーん、四国と九州は、どっちが名古屋から遠い?」

「ハハハ、九州のほうが遠いよ、まこちゃん日本地図知らないの?」

「習ったはずだけど、大阪より向こうは行く用事が無いから忘れたよ、きっと九州や四国の人も、名古屋がどこにあるかなんて知らないと思うよ」

「そんなことはないと思うよ」

「でもコレ、高知が呼んじゃってるよね、私達を」

「うん、呼ばれてるっぽい」

「行こう、高知県」

「行こう、高知県」

そんなわけで、私と横水さんは運命に導かれ、高知県に行くことになったのだ。

私は横水さんに言う。

「よこちゃん、後は家族の説得だけだね」

「うん、それは全然難しくない」

と、横水さんは私と同じことを言い、私達は伴侶に恵まれていることを心から感謝したのだった。

数日が経ち、いつものように横水さんと喫茶店に来ると、横水さんはバッグからたくさん書類の挟まったクリアファイルを取り出した。

「じゃじゃーん、まこちゃんがこの前話してた、高知で行きたい場所。全部押さえて1泊2日の旅をコーディネートしてみました!」

「すごーい! 仕事早ーい! さすが段取り上手のよこちゃん」

私は拍手する。

「いろいろ調べてみたら、ホエールウォッチングは夏が良さそうなの。で、行けそうな日程は8月の後半かな。まこちゃん、スケジュール大丈夫? フフ」

「病気療養中の身の上で多忙過ぎて、手帳は真っ白だけどね、まぁなんとかスケジュール開けて……って、いつでもオールオッケーだよ」

そして、横水さんは、何枚もの観光地のプリントを出し、テーブルに並べた。先日、私がてんでばらばらに話したスポットを、順序良く回れるコースに組み立てて、マップに配置したものを見せてくれた。

「すごいね、よこちゃん! 天才! 完ぺきだね!」

「でしょう~。行きたいとこも全部回れるし、食べたいものも食べられるよ」

「よこちゃん、このコースの中の、桂浜って何?」

「土佐出身の、坂本龍馬の有名な銅像が立ってるとこだよ。まこちゃん歴史好きなのに、知らないの?」

「知らなかった、そうなのかぁ。私の興味は江戸時代までで、幕末以降はあんまり。さらに坂本龍馬はイケメンじゃないから、力が入らない。でも、せっかくなら、見てみたいな。そして、『土佐に来たぜよ~』って、海に向かって叫ぶわ」

「叫んで叫んで。じゃぁ、この計画で飛行機とホテル予約しちゃうね」

「お願いしまーす」

と、そうして私達は3月のまだ肌寒い中、夏の高知行きを確定したのだった。

季節は春から夏になり、8月がやってきた。いつもの喫茶店で私と横水さんは、いつものようにのんびりお茶を飲んでいた。すると、横水さんの電話が鳴った。

「ハイ、ハイ、ハイ、いえ、予約通りでお願いします」

と、横水さんは電話を切ると、私に説明した。

「ホエールウォッチング、ツアーを頼んだとこからの電話。もしかして最少催行人数が集まらなかったら欠航だって。でも、行けなかったらしょうがないよね」

「うん、見れなかったら今回は縁がなかったってことだよ、問題ない。そしたら何か現地で違うことをしよう」

「これまでにも何回もやりとりしてるんだけど、この電話のおばちゃんさぁ、ものすごい早口の土佐弁でしゃべるから、聞き取るのが大変」

「アハハ、そうなんだー。いろいろお手数かけてすまぬのう」

「いいえ、問題なくってよ」

「あ、あと、よこちゃん、これ読むといいよ。知識があるほうが旅が楽しめると思って買っといた。私はもう読んじゃったから」

私は横水さんに1冊の本を手渡した。本のタイトルは『マンガ・日本の偉人伝――坂本龍馬』。

「おぉ、ありがとう、さっそく読むよ」

私達は、まもなくに迫ってきた旅を楽しみに、あれこれと想像し、語り合った。

そして前日。

いつもの喫茶店で向かい合う私と横水さん。横水さんが言った。

「ホエールウォッチングの時間がどうも合わなくて、旅程を変更したよ。最初の予定では、1日目がホエールウォッチング、市場で食事、ホテルでゆったり、で2日目がいろいろな観光地を回る、って内容だったじゃん。

でも、ホエールウォッチングの時間の都合を優先して、1日目が観光地めぐり、2日目がホエールウォッチング、ってことにする。

ホエールウォッチングも、ツアーを頼むところ変えたの。ホテルから2時間先のツアーになるから、2日目は1日ホエールウォッチングで終わる感じになるね」

「土佐弁のおばちゃんのとこじゃないとこにしたんだ」

「そう、あっちはタイミングが合わなくて」

「よこちゃんが決めてくれたなら、万事オッケーだよ。後は成り行きで行こう」

「うん、それじゃ、持ち物確認ね。まず、酔い止め」

「おぉ、酔い止め! ツイッターでホエールウォッチングには絶対持ってかなきゃ、って教えてもらった」

「なんか船がすごく揺れるらしいよ。これは私が買っとくね」

「お願いします」

「後は、船の上は日差しが強いらしいから、サングラス、腕カバーとか、日傘もいるね、それか帽子。後は普通に着替えとか、旅に必要なものね」

「メモした! いよいよ明日だね! 楽しみ!」

「朝7時35分の便で飛ぶから、6時半にクルマで迎えに行くよ。15分前に念のため電話入れようか」

「お願い。明日はがんばって起きるよ」

「では、また明日ね」

「また明日ね」

そしてその日、私はワクワクしながら荷造りをした。療養生活をするようになってから、7年ぶりの飛行機だ。

――飛行機! うつ病がひどかった時は、空飛ぶ密室空間なんて、考えただけでも半狂乱になったところだ。でも今は、明日飛行機に乗れることがうれしくて仕方がない。病気になる前、仕事をしていた時は、移動手段のひとつでしかなかったのに、今はもう、胸が高鳴る乗り物にグレードアップしている。ねぇねぇ、国内線って靴脱ぐの!? 脱ぐの!?とはしゃぎたくなるくらい、うれしい。

それに今回は船にも乗るのだ。うつ病がひどかった時は、海を行く密室空間なんて、半狂乱になったところだが、楽しみに思えるほど回復してきた自分の体調がありがたい。去年だったら、まだこんなふうに旅行に行けなかったな。

こんなにドキドキしたら、眠れないかもしれない――。

「ぐー」

あんなに大はしゃぎしていたわりに、私は意外とあっさり眠りに落ちた。

翌朝5時、出勤前の夫に揺り起こしてもらい、やっとのことで目が覚めた私だったが、準備も万端、意気揚々と家を出た。

ノースリーブのシャツを着て、ワイドなゆったりパンツ、つばの広い帽子をかぶり、顔からはみ出るくらい大きいレンズのサングラスをかけて、腕には日傘をひっかけて。マダム松桐谷の旅スタイルの完成だ。

ゴロゴロのスーツケースを引いて、マンションのエントランスを出ると、クルマの運転席から、私と同じく顔からはみ出るくらい大きいレンズのサングラスをかけたマダム横水が、手を振った。

「ハーイ、旅の始まりだよ~!」

「よしきた、レッツゴー!」

この日の天気予報は雨だったけど、私達の日頃の行いが相当良いので、空は快晴、良く晴れた日だった。気温が上がりそうな残暑の日差しの中、私達はクルマを一路、県営名古屋空港へと走らせた。

空港のレストランで、私と横水さんは20分ほどで慌ただしく朝食を済ませ、スーツケースを預ける。思ったより時間が無い。そのまま、手荷物のX線検査へ。前を行く横水さんの荷物がビーッと警告音を立てて止められる。

どうやら、横水さんのバッグに入っていた、携帯用バッテリーがひっかかったらしい。横水さんは慌ててバッグから、バッテリーを取り出す。

――ハハハ、よこちゃん、まんまとひっかかってるよう。

と思いながら、横水さんを横目に、セキュリティゲートを通過した私に、警告音が鳴った。髪を留めた金属製のバレッタがひっかかったのだ。外してやり直し、無事セキュリティゲートを通過。事なきを得た、と思ったら、今度はX線検査の手荷物のバッグも警告音が鳴った。

――しまった、私もバッテリー入れてた! 慌ててバッテリーを取り出す。再度手荷物検査のやり直し。またしても鳴る警告音。今度は爪切り用の小さいハサミ。えっ、えっ、バッグのどこに入れたっけ?

あたふたする私を、横水さんは心配そうにゲートの向こうで見ていたが、スタッフのお姉さんが、

「搭乗時間が迫っておりますので、お早く」

と、横水さんの手を取った。

そうして横水さんはお姉さんに急かされて、駆け足で通路の向こうへ行ってしまうではないか!

――よ、よこちゃぁぁぁぁ~ん!

私は心で絶叫しながら、3度目の手荷物検査を受け、ようやく通過を許可してもらえた。焦る顔のスタッフのお姉さんに併走され、飛行機までの搭乗路を猛ダッシュ。

たぶん、病気になってから、一番一生懸命走ったと思う。ギリギリで私が飛行機に飛び込んだとたん、ドアが閉まった。

私はヨレヨレになりながら、スチュワーデスのお姉さんに席に案内してもらった。人を笑わば穴2つである。

席に近寄ると、心配そうな横水さんがホッとした顔になった。

「まこちゃん、やられたね」

と言ってニヤニヤする。

「やられたよ~」

私は席にドッと倒れ込む。

「もう離陸するよ、ほんとにギリギリだったね」

と、窓側の席に座った横水さんが窓の外を指すと、私たちの乗った機体がゆっくり回転しはじめ、空港が後ろに移動して見えなくなった。

飛行機は爆音を立てながら滑走路を走る。徐々にスピードが上がり、エンジンの回転音が上がり、

――フッ

と機体が浮き上がった。

「飛んだ!」「飛んだ!」

と、私と横水さんは顔を見合わせ、同時に言った。

飛行機だから、飛ぶのは当たり前である。でも、旅に浮かれている私達は、そんなことには思いが至らない。

「よこちゃん、私、飛行機に乗れたよ!」

「よかったね! まこちゃん見て、あんなに街が小さくなっていくよ」

「おぉ、行ってくるぜよ、さらば名古屋よ~」

などと言いいながら、中部地方を俯瞰して別れを告げているうちに、飛行機はみるみる加速し、地上はどんどん遠ざかり、雲の中に突入し、そして雲の上に出た。

「おぉ~、見て、まこちゃん、雲の海。素晴らしいね!」

「美しいね! よこちゃん」

私達は機内の窓からパシャパシャ写真を撮り、外を眺めた。

眼前に広がる雲の海、空はスカイブルーから濃いブルーへのグラデーション。そして、雲海のさらに上の空にたなびく雲。

ハァー、と私はため息をつき、

「こんな景色が見れただけで、もう、私は生きててよかったと思うよ」

と言うと、

「まだまだ、旅は始まったばっかりだよ。これからもっと楽しいことがあるよ」

と横水さんは笑った。

機内食にクロワッサンとリンゴジュースが出た。私たちがはしゃぎながら笑いながらおしゃべりしているうちに、チャイムが鳴り、まもなく高知空港到着、というアナウンスが流れる。窓の外には土佐湾に面した円弧の陸地が見えてきている。

「もうすぐ着くよ」

「あっという間だったね」

名古屋―高知、搭乗時間1時間。楽しい空の旅はあっという間に終わり、私たちはついに、高知龍馬空港に降り立ったのだった。

↓続きを読む

飛行機から降りた私と横水さんは、機体から降ろされた荷物が出てくるベルトコンベアの前で、スーツケースが回ってくるのを待つ。荷物をピックアップし...

↓目次へ

よこまこ道中 ビバ★ホリデー! ~旅は道連れ 世は情け 自由気ままな2人旅♪~ ――高知編―― ↓【1話】事の発端と旅...